新世界原案

 

 

 

 

 

0.    雷の精霊

□これは、光も闇も曖昧であった頃の神話である。

 

世界を震わせるほどの雷が落ちた。地面が揺れ、暗かった空は一瞬昼間のように明るくなる。

女神が放った一撃が収まると、二度目雷が光ることはなかった。

暗い闇世界の中で、静かに雨が降り続く。

焦げたような匂いが怪しく漂っている。

 

物音一つしない静まり返った世界で、死にかけの精霊が倒れている。

「苦しい・・・苦しい」

雷とともに、突き落とされたように作られた精霊だった。

起き上がれない。服は着ていない。体中は傷だらけだ。

何かを見つめているようだが、その瞳には、何か映っているのだろうか。

 

ぼんやりしていた世界が見え始めてくる。少しずつ焦点があってくるのがわかった。

死にかけの精霊は、虫が目の前を歩いていくのを目で追っている。時折重たくなる瞼が邪魔だ。

「生きれるなら生きて見な」

そう言われた気がして、彼は収まることのない、怒りの感情を覚えた。

「見せつけてやる。生きるという事がどういう事かを」

声には出ていないが、彼は鋭い目で叫んだ。

虫を掴む。

 

虫は集団で生きるため、あとからあとから現れてくる。

精霊は寄り付く虫を手当たり次第に食べていく。

彼は、彼の血が体中を巡っていくのを感じた。

精霊を生み落した破壊の女神は、彼の這って生きるさまを見ていた。

 

そして精霊は、虫を見つけては食べて生き続ける。

やがて歩くことが叶うようになり、彼の瞳には確かな力が宿り始める。

目的さえなかったが、彼は歩き続ける。やがて目の前に高い塔を見つける。

“上がって来い。私は上にいる”

女神の示した声が彼の耳に届いた。

彼は呼ばれたとおりに、息が止まってしまうほど高く、果ての見えない塔をのぼっていく。

彼は振り返る事をしなかった。

彼は三日歩き続け、雲で地上が見えなくなる高さまで上りつめた。

そこは塔の頂上だった。はじめて彼は床に膝をついた。また生まれた時のように横たわってしまう。

今度こそ、食べるものなどない。目の前がかすむ。しかし、彼の目は生きている。

やがて声の主が現れる。頂上では、彼を生み出した女神が待っていた。

 

□破壊の女神

「お前を呼んだのはこの私だ。お前の名はRAIと呼ぶ」

「お前は生きた内臓を食べることでしか命を繋げない。草も木も、実も水も、お前の命の代わりになるものはない。教えてはいないが、お前は直感で虫を食べた。虫の内臓でお前は生き延びた。そしてその力で、私の声を聞き、忠実にのぼりつめ、ここまでたどり着いた」

「お前の生きる意志と野望の強さが私に伝わった。お前には可能性が見える」

 

RAIと呼ばれた精霊の背中にガラスのような黒い羽根が生えた。

そして女神は彼に破壊神としての役目と雷の力を与えた。

彼は体中にものすごい力が駆け巡っているのを感じた。

目は大きく見開いている。彼は立ち上がって、自分の身なりが変わったのを見つめていた。

 

「塔の頂上というのは、眺めが良いものだ」

女神は、彼を塔の端まで呼んだ。RAIはその通りに、地上を見下ろす。

さっきまで雲が覆っていた場所は、すっきりと見えるようになっていた。

どうやらあの雲は、とんでもなく果てしない世界を隠していたらしい。

RAIは見落とす場所がないくらいに地上を見つめている。

 

「どうだ」

「これは、何というものです」

「平和の神が作り上げた世界だ」

「俺はこの中に混ざりたくはない」

「統一する存在になりたい。おれが神になります。世界を見下ろし続けるのは、どれほど気分のいいことでしょう」

「良い答えだ」

 

 

 

女神は、彼に破壊のシンボルを掲げた三角旗を与えた。

「ならば手に入れろ。強さですべてを制圧すれば世界はお前のものだ。聖地を回れ、旗をさし己がその地を代表するものであることを示すのだ」

「お前が地上へ降りる頃、新しい世界が広がっている。女の内臓を探せ。お前が持たないものは、お前をより強力にするだろう」

RAIは三角旗を受け取ると、強い決意を女神に語る。

「女神、おれを作り出し野望を与えて下さり感謝します。女神が悦んで下さる、最高の世界を作りましょう」

そういって彼は来た道を駆け降りはじめる。

 

彼が走り降りていくあとをついてくるように、黒い雲が塔の頂上を隠していく。

彼は目を大きく見開いていた。これから起こる出来事が楽しみで仕方がなかった。

塔の中腹から、自分がさっき授かった力を使って見せた。

真っ黒な暗闇を裂くように、真っ白な雷が地上へ向かって落ちていく。

 

地上に雨がふりはじめる。

安定しない天候を怪しんで、動物たちは安らげる場所を求めて歩き始めた。

RAIは更に早い速さで、塔を降りていく。

何度も雷は鳴り続けた。

 

地上を作ったとされる創造神は、彼のような悪魔が訪れることを知る由もなかった。

創造神の妻は、雷を恐れた。心配そうに外を気にしている。

MAKE

「神がお怒りなのかもしれない。私が会って話をしてこよう」

妻の様子を心配した創造神は、彼女を動物たちに守らせて、外へ様子を見に出ようとする。

MATA

MAKE様。私はどうしたら・・・」

「女性は雨の日外出しては裾が汚れてしまう。大丈夫、話し合いをするだけだ」

そう言うと、動物たちにもう一度彼女を守るように指示して外へ出た。

 

彼が聖地へ向かうと、そこには想像もつかない世界が広がっていた。

折れた平和の旗が潰されている。

旗を掲げる燈台は、雷の当たった場所が黒く焦げ、高い柱は何本も破壊されている。

創造神は目の前の状況を理解できなかった。

「オマエが創造神か」

そういうと、RAIは創造神を雷で打ち抜く。

新世界

01.  暗転

 

強い電撃で撃たれたMAKEは、その場で苦しむことしかできない。

RAIは彼の苦しむ姿を見て悦んだ。

「世界を作った気分はどうだ。今度は俺の番だ!」

RAIは彼に旗を投げ返し、聖地へ破壊の三角旗を掲げなおした。

MAKEは彼にそう簡単に譲ろうとはしなかった。彼の足を掴み抵抗を始める。

 

「世界をどうするつもりだ。この世界に約束された平和は私が守らねばならんのだ」

「戦う事も出来ないヤツが世界を守れるはずがない。これからは強さがものを言うのだ」

そう言うと、RAIMAKEの顔に手をかけ電撃を当てる。RAIは自分の強さに陶酔した。

焼ける痛みに苦しむMAKEを蹴飛ばし、髪を掴んで話しかける。

「戦うと力が減るな。そうだ、今、女の内臓を探しているんだ。お前、女を知らないか」

「何を言っている。立ち去れ化け物」

そう言うと、折れた平和旗の柄でRAIの肩を突き刺した。

 

掴み合いが始まる。MAKERAIの肩から手を離さなかったが、RAIは雷の力を持っている。MAKEは電撃に圧倒されて、木の柄を奪われてしまう。

「どこから取り出そうか、貴様の内臓」

胸を一突きする。そこから何かを取りして食べ始める。MAKEは叫ぶこともできない。

MAKE様」

女性の叫び声が響き渡る。そこにいたのはMATAだった。

 

心細いあまりに、はやくMAKEが帰ってくるように、様子を見に出ていた。

RAIは、MAKEを投げるように、髪の毛から手を放した。

「探し物のほうからわざわざ来てくれるなんてな。おれはつくづく運のいい男だ」

「この地は平和を願った場所。悪魔は呼ばれていません。帰ってください」

そう言ったMATAは、愛する者の変わり果てた姿を見て、泣きながら肩を震わせている。

MATAは意を決して、持ち出してきた短剣を構える。

 

「創造神も物騒なものを持っているんだな。それは似合ってないぞ。俺がもらう」

肩を損傷したRAIは、片腕から電撃が出ないことを知らなかった。

MATAを掴むも、一瞬の隙が生じる。MATAは掴みかかった手首を掻き切った。

血が吹きだし、RAIは強い怒りを憶えた。

「おれに怪我を負わすとは、女、ただものじゃない。内臓を寄越せ」

RAIMATAを押さえつけて、剣をもぎ取った。

「最初のおまえの叫びで全身の血の巡りがおかしくなった。良い声を持っているな。でもおれが欲しいのは、声ではない。しかしおれはお前の声は好きだ。だから声は残す」

RAIは、MATAの下腹部を掻き切った。

何かを取り出している。

「女神が仰っていたのはこれだ」

もはや地獄のような風景であった。

 

RAIは女の内臓を食した。その臓器の持つあまりに強大な力に、寒気さえ覚えた。

余りの興奮に、彼はじっとしてはいられなくなった。

「まだ目の前に、食えるものがある」

 

RAIは動くことのなくなったMAKEに向き直る。

「貴様は殺したが、生まれ変わることのないぐらい、変わり果てた姿にしてやる」

そう言って剣を構えたRAIを、MAKEの手が掴んだ。目はうっすら開いてる。

「私はお前の事を絶対に許さない。絶対に」

最後まで聞き終わることなく、RAIMAKEを崩していった。

露呈した内臓を次々に食べていく。

そして下腹部も開く。

 

「おれの直感は当たる。やはりコイツには、あの賍物はない」

RAIはあらゆる臓器を食いつぶし、二度と戦えないようにすべてのパーツを切り刻んだ。

目の前に広がる光景は、彼にとっては一通りの食事の後にしか見えないのだ。

満足げに旗に血で文字を書く。

「世界を導く者、新たなる存在RAI

 

「次の聖地へ」

そう言い残し、最初の聖地を後にした。

彼が聖地の半分を制覇した頃、

世界の管理者「破壊の女神」と一対の存在である「創造の女神」が姿を見せる。

創造の女神は、荒れ果てた聖地を見てひどく悲しんだ。

そして、綺麗に残されていた女性の身体を拾い上げた。

「戦う力を授けます。あなたたちは復活する。戦う者として生まれ変わりなさい」

女神は世界に落ちる全てのものを集め、崩れてしまった死体を修復していく。

「彼に見つかったとき、もう一度狙われることのないように」

 

女性であった死体は、小さい青年へと姿を変えていった。

「あなたたちはどこかで再会するでしょう。心配はいりません。少しの間、己の戦い方について、学ぶ時間を与えます。さあ、あなたは先に進みなさい。彼もすぐに続きます」

そう言うと、女神は小さいほうの青年にD.S.と言う名を与え、目を開けさせた。

自分が生まれたことに気が付いたD.S.は、使命を知っているのか、敵の姿を探して走り出した。

 

創造の女神は更に大きな仕事に取り掛かった。

D.S.から得た体の一部を併せ、木、石、水、花、あらゆるものが使われた。

食い散らかされた死体は、それらと合わされ、一度真っ白な炎で包み込まれた。

二度と戻らないだろうと思われた死体は形をつくりなおし、立派な青年を組成していった。

しかしその姿は、生前とほとんど変わり映えのしない容姿をしていた。

「仲間である彼があなたをすぐに見つけ出せるように」

 

彼の名は、GOKAとされた。彼の瞳には、炎のような煌めきが灯っている。

「あなたは、革命軍を形成し、変わり果ててしまった世界に平和を取り戻すのです」

GOKAは、女神に忠誠を誓った。

「ここに生まれ変わったこと、感謝いたします。私は彼の存在を覚えています」

「世界のために戦ってください。動物たちは皆怯え、悲しみに暮れています」

「全力で戦います。彼を制裁します」

女神は彼に革命軍の旗を与えた。

 

「彼に聖地を与えてはなりません。悲しみの世界を壊し、塗り替えていくのです」

「彼は今勢力を増していくばかり。手下を連れています。一人では太刀打ちできません。途中で仲間があなたの事を待っています。芯の強い、美しい戦士を見つけなさい」

「わかりました。必ずや、すべての聖地をまわります。しかし女神、ひとつだけ聞きたいことがあるのです。以前私の身体はここまで重かったのでしょうか」

「あなたの身体を修復するに当たり、多くの鉄鉱石が使われました。しばらくの間、新しい身体を理解する時間が必要でしょう。徐々に慣れていかなければなりません」

GOKAは自分の手を見つめた。表面は黒く硬い何かで覆われている。

 

「いずれそれは強さへと変えられるでしょう。さあ、革命の旅へ行きなさい」

「全力を尽くし、この世界に平和を取り戻して見せます」

武器を装備し、頑丈な衣服に身をまとったGOKAは、旗を掲げ奪われた聖地へと向かう。

 

 

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